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東京地方裁判所 昭和32年(ヨ)2036号 判決 1958年7月11日

東京都台東区浅草芝崎町二丁目四番地

債権者

八隅峯

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

所沢道夫

外二名

東京都台東区浅草芝崎町二丁目四番地

債務者

永沼秀幾

外一〇名

右一一名訴訟代理人弁護士

天野郷三

右当事者間の昭和三二年(ヨ)第二、〇三六号理事監事職務執行停止仮処分申請事件について当裁判所は昭和三三年、六月二七日終結した口頭弁論に基いて次のように判決する。

主文

債権者等の本件申立を却下する。

訴訟費用は債権者等の連帯負担とする。

事実

債権者等代理人は「(一)債権者等の申請外ニユーアサクサ商業協同組合(主たる事務所東京都台東区浅草芝崎町二丁目四番地)に対する総会決議(昭和三一年六月二五日の)不存在確認訴訟の判決確定に至るまで、債務者永沼秀幾は右商業協同組合の理事兼代表理事の職務を、債務者望月唯一、同川谷勝視、同田島好子、同遠藤藤吉、同佐藤タリ、同鳥居トミ、同横尾健治、同星野万平は右商業協同組合理事の職務を、債務者小川喜一郎、同海老原イキは右商業協同組合監事の職務をそれぞれ執行してはならない。(二)右職務執行停止期間中適当な者をして右商業協同組合の理事代表理事及び監事の職務をそれぞそ代行せしめる。」という趣旨の仮処分判決を求め、その申請理由として、

一、申請外ニユーアサクサ商業協同組合は、中小企業等協同組合法に基き、共同販売等の共同施設事業を主たる目的として、出資一口の金額五〇〇円、出資総口数九四口、払込済出資総額四七、〇〇〇円をもつて、昭和二五年二月二四日露天商人を組合員として設立された事業協同組合であつて、債権者等は何れも右組合の組合員であり、債権者八隅峯は昭和三〇年二月六日から同三一年六月二五日まで右組合の理事兼代表理事、債権者中村新三は同期間中組合の理事の地位にあつたものである。

二、昭和三一年六月二五日東京都台東区浅草芝崎町二丁目四番地旅館青落荘に招集された臨時総会において、債務者永沼秀幾、同望月唯一、同川谷勝視、同田島好子、同遠藤藤吉、同佐藤タリ、同鳥居トミ、同横尾健治、及び同星野万平は同組合の理事に、同小川喜一郎及び同海老原イキは同組合の監事にそれぞれ選任せられ同日右選任に係る理事等の構成する理事会において債務者永沼秀幾を代表理事に選任し、同年七月三日それぞれその旨の登記がなされた。

三、しかし、右組合総会決議は、その内容が法令に違反し無効である。すなわち右決議によつて選任された本組合九名の定数理事中債務者永沼秀幾、同望月唯一、同川谷勝視、同佐藤タリ、同横尾健治、同星野万平の六名は右総会当時組合員たる資格を有せず従つて右決議は理事定数の三分の二以上の者が組合員であることを要することを定めた中小企業協同組合法第三五条第四項の規定に違反する。そうだとすれば、無効な右の総会決議によつて本組合の理事または監事に選任された債務者等はいづれも、その決議に基いて、かような地位を取得するいわれなく、また、債務者等のうち右決議によつて理事に選任された者がその互選によつて債務者永沼秀幾を代表理事に選任しても同人はこれによつて代表理事に選任しても同人はこれによつて代表理事たる地位を取得しない。

四、前記六名の債務者等が組合員たる資格を有しないとの主張を詳述すれば次の如くである。

本件組合員はいづれも風俗営業取締法施行令に所謂簡易料理店を経営するものであり、而してその組合員としての資格要件としては、本件組合定款第八条に定める通り、(1)組合の地区内において商工業を営む業者であり且つ(2)組合の地区内に店舗を有することを要するものであるところ、

(一)債務者永沼秀幾は本件総会当時組合の地区内において自らの営業を行つて居らず且つその地区内に店舗を有するものではなかつた。すなわち同人の内縁の妻川島かおるが同地区内において簡易料理店営業を経営していたに過ぎない。

(二)債務者望月唯一も同様本件総会当時組合の地区内に店舗を有するものではなかつた。同人の妻望月あきが同地区内において、簡易料理店営業を経営していたのに過ぎない。

(三)債務者川谷勝視は、同様本件総会当時組合の地区内において自から営業を行つておらず且つその地区内に店舗を有していなかつたのみならず、其処に居住していた事実もない。同人の妻川谷ゆきが同所において簡易料理店営業をしていたのに過ぎない。

(四)債務者佐藤タリは、かつて本件組合の地区内に店舗を有し簡易料理店を経営していたが、昭和二八年末右営業及び店舗を第三者に譲渡し、本件組合総会当時は、右地区内に店舗を有して営業を行う者ではなかつた。

(五)債務者横尾健治は、本件組合総会当時組合の地区内において店舗を有し営業を営む者でなかつたのみならず、同地区内に居住する者でもなかつた。同人の義妹大塚澄子が同所において簡易料理店営業を行つていたのに過ぎない。

(六)債務者星野万平は同様本件組合総会の当時組合地区内において店舗を有し営業を行つていた者ではない。同所において同人の娘星野ツネが簡易料理店営業を行つていたのに過ぎない。

五、しかるに債務者等は、登記簿上、理事或は監事として記載されている地位を利用して不当に組合所属の不動産を売却処分せんとしており、かくては組合に回復し難い損害を生ずる虞れがあるので本件申立に及んだ。

と述べ、立証(略)。

債務者等訴訟代理人は債権者等の申請を却下するとの判決を求め、債権者の申請理由に対し

申請理由三の事実中本件組合の理事定数が九名であることを認め、債務者永沼秀幾、同望月唯一、同川谷勝視、同佐藤タリ、同横尾健治及び同星野万平の六名が本件総会当時組合員でなかつたとの主張事実を否認し、四の事実中本件組合の定款に組合員の資格要件として債権者等主張の如き規定の存することを認め、なお

(一)債務者永沼秀幾の組合員資格につき本件総会当時本件組合地区内において営業を営む名義人が同人の内縁の妻であつたことは認めるがその営業の主体すなわちその営業の経済の帰属者は同債務者であつた。

(二)債務者望月唯一の組合員資格について、本件総会当時組合地区内において営業を担当する者が同人の妻望月あきであつたことは認めるが、前同様の意味における営業の主体は同債務者であつた。

(三)債務者川谷勝視の組合員資格について、本件総会当時組合の地区内において、営業を担当していた者が同人の妻川谷ゆきであつたこと及び同所に居住していなかつた事実は認めるが前同様の意味において営業の主体は同債務者であつた

(四)債務者佐藤タリの組合員資格について、昭和二九年六月頃同債務者が組合の地区内に有していた店舗を申請外馬定一に譲渡する約束をした事実はあるが、その譲渡代金が未払のため右店舗の権利は未た同人に移つていない。

(五)債務者横尾健治の組合員資格について、本件総会当時組合地区内において営業を担当する者は同人の義妹大塚澄子であつたこと及び同債務者が同地区内に居住していなかつたことは認めるが当時営業名義人及び営業の経済の帰属者としての営業の主体は名実とも同債務者にあつた。

(六)債務者星野万平の組合員資格について、本件総会の後である昭和三一年一〇月一七日から昭和三二年一一月三〇日まで同人の娘星ツネに営業を担当せしめた事実はあるが、同債務者の組合員資格に関する債権者等の主張事実は認めない。

と述べ

立証(略)。

理由

一、債権者等の申請理由、一及び二の事実は債務者等の明かに争わないところであり、本件組合の理事定数が九名であること及び同組合の定款としてその第八条に組合員は(1)組合の地区内において商工業を営む者であり且つ(2)組合の地区内に店舗を有することを要する旨の規定の存することは当事者間に争のないところである。

二、よつて債権者等が本件総会当時組合員たるの資格がなかつたと主張する六名の債務者について、その資格の有無について按ずるに、前記当事者間に争のない組合員資格に関する定款第八条の解釈として、苟も組合の地区内に店舗を有し経営の経済の帰属者としてその経営の主宰者たる者は、同条に所謂その地区内で事業を営む者であり、その経営を実際に担当する者が何人であるか、その営業名義人が何人であるか或は組合の地区内に居住するものであるかどうかは、これを問わないものと解すべきである。かかる観点から右六名について、これを各別に判断する。

(一)債務者永沼秀幾について

本件総会の当時において組合地区内で営業を営む名義人が同人の内縁の妻川島かおるのであつたことは当事者間に争がない。しかしながら疎明(略)を綜合すれば当時その経済の帰属者として経営の主体は右債務者本人であつたことが認められる。

(二)債務者望月唯一について

当時本件組合の地区内において実際の営業を担当していた者が同人の妻であつたことは当事者間に争がない。しかしながらを疎明(略)を綜合すると、当時営業の名義人も経済の帰属者としての経営の主体も共に同債務者本人であつたことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)債務者川谷勝視について

当時営業の担当者が同人の妻であり、同人が組合の地区内に居住していなかつた事実については、当事者間に争がないしかしながら、疎明(略)を綜合すれば当時営業の名義人も経済の帰属者としての経営の主体も共に同債務者であつたことが認められこの認定を覆する足りる証拠はない。

(四)債務者佐藤タリについて

本件総会以前の昭和二九年六月頃、同債務者が本件組合の地区内に有していた店舗を申請外馬場定一に譲渡する約束をしたことは債務者等の認めるところであり、その後右総会当時同債務者が本件組合の地区内において営業を行つていた事実はこれを認めるに足りる証拠はない。

(五)債務者横尾健治について、

同債務者が当時組合の地区内に居住していなかつたこと、同地区内の営業を担当する者が同人の義姉大塚澄子であつたことについては当事者間に争がない。しかしながら疎明(略)を綜合すれば当時同債務者は経済の帰の帰属者としての営業の主体の主体として右地区内で営業を行つていたことを認めることができる。

(六)債務者星野万平について

本件総会の後である昭和三一年一〇月一七日から昭和三二年一一月三〇日まで同人の娘星野ツネに組合地区内の営業を担当せしめたことは債務者等の認めるところであるが疎明(略) 綜合すれば、組合地区内の営業について同債務者が本件組合総会の当時経営者であつたことが認められこの認定に反する証拠はない。

以上の認定の通りであるとすれば、右六名の債務者のうち債務者佐藤タリは当時組合の地区内で営業を営む者であつたことを認めることができないからこれを目して当時本件組合の組合員であつたとすることはできないけれども、その余の五名の者は、その営業名義人、営業担当者及び住所の点は兎も角として、営業の経済の帰属者として本件組合の地区内で営業を営む営業の主体であつたことが認められるから、本件組合の前記定款の規定に照らし、いづれも当時本件組合の組合員であつたと認めなければならない。そうだとすれば本件総会によつて選任された九名の理事中債務者佐藤タリを除く爾余の理事が非組合員であつたことが認められない次第であり、従つて九名の理事中三分の一以上が非組合員であることを理由として本件総会の決議が無効であるし、且つその無効を前提として、債務者長沼秀幾が本件組合の理事長でないことを主張して本件仮処分を求める債権者等の申立はその理由がない。よつてこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九三条第一項但書を適用して主文のように判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 仁分百合人

裁判官 上野宏

裁判官 菅野啓蔵

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